ナンカン FT-9 M/Tは、台湾最古参のタイヤメーカーが生み出したM/T(マッドテレーン)タイヤだ。
軽自動車カスタムシーンで圧倒的な支持を集め、そのコストパフォーマンスと走破性の高さで「アジアンMTの定番」の地位を確立した存在となっている。
この名鑑ではFT-9 M/Tの設計思想と実力を、マニアックな視点で解剖していく。
FT-9の出自:台湾の名門NANKANGが継承した「ワイルドと実用の両立」

台湾で最も長い歴史をもつ名門タイヤメーカーNANKANG(ナンカン)は1959年創業。常に技術革新に挑み、世界180ヶ国以上での販売実績を誇るアジアンタイヤブランドとして、その名は世界に轟いている。
- ROLLNEXシリーズのDNA:FT-9は、NANKANGの4×4・SUV専用ラインナップ「ROLLNEXシリーズ」に属するM/Tタイヤだ。前身モデル「N889」を踏襲しながらも進化し、最新M/Tにも近いパターンデザインを採用している。歴史の重みを持ちながら、現代の悪路ニーズにも対応した正統進化版だ。
- FTシリーズの布陣:「FT」シリーズはSUVと4×4をラインアップ。街中走行向けのS/T「FT-4」、オン・オフ対応のA/T「FT-7」、そしてオフロード特化のM/T「FT-9」という体系で構成されている。FT-9はその中でも最もオフロード寄りの頂点に位置する。
- 台湾製造の徹底品質管理:生産拠点は台湾。「台湾エクセレンスマーク(Taiwan Excellence)」を受賞するなど、革新・デザイン・品質・マーケティングの4審査項目で高く評価されているブランドの品質基準が、1本1本に宿っている。
設計の秘密:FT-9の造形に隠された「意図」

一見、荒々しいだけに見えるブロックパターンだが、すべてが悪路制御に基づいた機能美だ。
- ショルダー部クロスパターン設計:ショルダー部の交差パターンにより、オフロード走行時に小石・泥を噛み込んで排除し、悪路での操縦性能をアシストする。これにより、軽トラやジムニーなど非力なエンジンでも、ぬかるみや砂利道でのコントロールを失いにくい。
- フック型ブロック設計:フック型のパターンブロックが、がれきや土塊の把握推力(トラクション)を高める。さらに、パターンブロックがショルダーまで伸びていることで、トレッドが路面を捉えられない場面でも、ショルダーブロックが牽引力を提供する。
- セルフクリーニング機構:溝底のバーが小石の挟み込みを防ぎ、走行しながらセルフクリーニング性を発揮する。泥詰まりを自力で排除するこの設計が、長距離のオフロード走行でも安定した性能を維持させる。ブロック形状は比較的硬めに設計され、エッジのカットや破損に対応しながらロングライフを実現している。
性能評価チャート:FT-9 M/Tの戦闘力を分析

スペック表には現れない、実走シーンに基づいた性能を5段階で評価した。
- オフロード走破性(★★★★★):フック型ブロックとショルダーまで伸びたパターン設計により、泥・砂利・未舗装路での牽引力は最高水準。ドライ・ウェット問わず安定した操作感を得られるという実走レポートも多数。M/Tタイヤとしての本分を完全に果たしている。
- コストパフォーマンス(★★★★★):国産ブランドと比較してネット通販では半額以下も。トーヨー「OPEN COUNTRY A/T+」と同サイズで比較すると1台分で約8,000円安く購入できる。このコスト優位性はそのまま★5の評価に直結する。
- 耐摩耗性能(★★★★☆):ブロック形状を硬めに設計し、ロングライフを実現。「3年・4万km使用できた」という報告が複数あり、価格を考慮すれば十分以上の耐久性だ。
- ウェットグリップ(★★★☆☆):舗装路のウェット性能は日本製スポーツタイヤには及ばない。ただし雨の日の橋のジョイントでハンドルが軽くなるような挙動がないという実走評価もあり、M/Tとしての水準は満たしている。
- 静粛性(★★☆☆☆):これが正直な弱点だ。ブロックパターン由来のロードノイズはハッキリと大きく、静粛性を最優先するドライバーにはそもそも守備範囲外だと割り切ることが大人の選択だ。
- オンロード快適性(★★☆☆☆):舗装路での突き上げ感や燃費への影響は正直に存在する。燃費は1km/L程度の低下が見られるというユーザー報告もある。日常の街乗りが9割という使い方には不向きだ。
他社比較:アジアンMT以上、国産MT未満の「王道ポジション」

なぜこのタイヤが「軽カスタムのMT定番」と言われるのか。3つのポジションを比較すれば、その理由は明快だ。
- 中国製格安MTタイヤ派:ハイフライやマックストレックなど、価格最優先で選ぶ層。1本5,000円以下も存在するが、品質管理やブランド信頼性に不安が残るケースもある。NANKANGの長年の実績との差は価格差以上の安心感として現れる。
- ★ナンカン FT-9 M/T派:国産MTの半額以下という予算で、「台湾老舗ブランドの品質と、本格M/Tの走破性」という2つの核心だけは妥協したくない。見た目もRWL(レイズドホワイトレター)で決めたい。余計なブランドプレミアムを払わず、実力本位で選ぶ賢明な層に支持されている。
- 国産MTタイヤ派(トーヨー OPEN COUNTRY M/T等):オンロード性能との両立やアフターサービスを最優先する層。性能は高いが、GEOLANDAR G015はFT-9の約2倍の価格で、ライトオフロードユーザーには過剰投資になりがちだ。
FT-9 M/T|メリット・デメリット:納得して選ぶための正直解説

- メリット:台湾老舗ブランドが保証するコスパと走破性
最大の武器は、オートウェイでの総合評価5点満点中4.5点という高評価が証明する「価格以上の実力」だ。M/T特有のフック型ブロックによる悪路走破性は、国産との価格差を感じさせないレベル。軽トラ対応サイズ(145/80R12)もラインアップし、ジムニーから軽トラ・スペーシアギアまで対応できるサイズ展開の豊富さも選ばれ続ける理由だ。 - デメリット:ロードノイズと燃費は「MTタイヤとの契約」として受け入れる
M/Tのブロック設計から発生するロードノイズは正直に大きい。3年の使用期間を経るとタイヤの硬化・摩耗でノイズも増大する傾向がある。燃費への影響も一定程度ある。ただしこれはM/Tタイヤ全般の宿命であり、「見た目と悪路性能を取ったうえで、ノイズと燃費は折り合いをつける」という大人な割り切りがセットだ。
リアルな評判と評価:市場が下した「格安・高実力」

ターゲット層の期待値(見た目重視・予算重視・オフロード志向)と製品の実力が、非常に高い次元で一致しているのがFT-9の強みだ。
- 評価の分かれ目:一部で「ロードノイズが大きい」「燃費が落ちた」という声も聞かれるが、それはM/Tタイヤ全般に共通する特性であり、本製品の守備範囲ではない。むしろユーザーが高く評価しているのは、「ブロックパターンなのにひどいロードノイズがない(MTタイヤとしての比較)」「雨でも滑りやすいこともなく全く問題ない」という、日常使いでの安心感だ。
- 専門家の一言:一般的に「アジアンM/Tタイヤは安かろう悪かろう」という定説がある。しかしFT-9は、1959年創業・台湾エクセレンスマーク受賞というブランドの裏付けのもと、フック型ブロックとセルフクリーニング設計で、その常識を覆した。「予算半額で、走破性はほぼ互角」——この命題を実走レベルで証明したことこそが、FT-9が名鑑に刻まれるべき最大の功績と言えるだろう。
適合マッチング:このタイヤを「指名買い」すべき車

FT-9 M/Tの特性(M/T走破性・ホワイトレターのビジュアル・軽量コンパクトサイズへの対応)を最大限に活かせる適合車種は以下の通りだ。
- 軽4WD・ジムニー系(175/80R16、165/65R14等):スズキ ジムニー、三菱 パジェロミニ、スズキ ラパン。ジムニーへの装着実績は特に多く、RWLによるサイドビューのインパクトも高い。軽4WDのオフロードタイヤとして圧倒的な人気を誇る。
- 軽バン・エブリイ系「ちょいアゲ」仕様(165/65R14、155/70R13等):スズキ エブリイ(DA64W/DA17W)、ダイハツ ハイゼット カーゴ。ボディやフロントショックとの干渉なく装着できるサイズも豊富。数センチの「ちょいアゲ」カスタムとの相性が抜群だ。
- 軽トラカスタム(145/80R12 80/78N等):ホンダ アクティトラック、スズキ キャリイ、ダイハツ ハイゼットトラック。軽トラ対応サイズをラインアップするFT-9ならではの強み。ホワイトレター仕様で実用車を一気にカスタム色に染め上げる。
ナンカン FT-9 M/T テクニカルスペック表

単なるサイズ表記に留まらない、FT-9 M/Tの詳細な設計データだ。インチアップ時の空気圧管理やホイールマッチングの参考にしてほしい。
| タイヤサイズ | LI/SS(※1) | 外径 (mm) | タイヤ幅 (mm) | 標準リム (inch) |
|---|---|---|---|---|
| 145/80R12 | 80/78 N | — | — | 4.0J |
| 155/70R13 | — | — | — | 4.5J |
| 165/65R14 | 79 S | 570 | 170 | 5.0J |
| 165/60R15 | 77 S | — | — | 4.5J |
| 175/80R16 | 91 S | 686 | 177 | 5.0J |
| 185/85R16 | — | — | — | 5.5J |
※1 LI/SS:ロードインデックス(耐荷重)/ 速度記号(最高速度)。S=最高速度180km/h、N=150km/h対応。
※2 スペック値は代表サイズの参考値。実測値と若干異なる場合がある。購入前に必ず車両スペックと照合のこと。
まとめ:名鑑が下す最終評価

ナンカン FT-9 M/Tは、決して「静粛性」や「燃費性能」を競うためのタイヤではない。
しかし、1959年創業・台湾エクセレンスマーク受賞という絶対的なバックボーンを背景に、徹底的に「無駄なブランドコスト」を省き、「悪路走破性とビジュアルインパクト」という名の核心だけを残した逸品だ。
国産MTタイヤの半額以下で、走破性はほぼ互角——そんな合理的な選択肢を求めるドライバーにとって、FT-9 M/Tは間違いなく「正解」の一本だ。


